そろそろ秋だね。
秋といえばみんなは自分の家燃やしたことある? 当方ある。
燃やしたというか、あと少しでも消火が遅れていたら、それこそ家が全焼していただろうっていうボヤ騒ぎを起こしたことがある(去年、豚肉を炒めていて火災報知器が鳴った件とは別の話だ)。
その時は、自分の命のみならず家族の人生も巻き込んでめちゃくちゃにしかねない大変なことをしたものだと今でも思い出す。
それ以来、俺は火の扱いをきちんとし、自分の命を神にもらったものだとして大切に生きるようにしている。男の子はこのように、ちょっとした冒険で成長するものなのだ。
あれは俺が大学3年の冬休みのことだ(「男の子」にしちゃ成長しすぎてる感あるが)。
大学での勉強が忙しく、また、就活がそろそろ始まるということもあって、将来を期待される青山青年は一日のうち16時間くらいをオンラインゲームに熱中して過ごすという生活を送っていた。
その日もそんな感じで、朝方くらいまでゲームをやって、ちょっと昼過ぎくらいまで仮眠するかと言って敷きっぱなしの布団に横になり、ストーブを消すことも忘れてそのまま寝落ちしたんだ。
ここまでで俺がやった悪い事はどれだけあるだろう?
とりいそぎ何もなさそうだから先へ進む。
そんで、昼寝から覚めると部屋が真っ暗だった。
あれ、夜まで寝ちゃったのかな?
などと1秒くらい思ってから、すぐにそれが異常事態であることに気がついた。
真っ暗なのは部屋中に黒い煙が充満しているかだった。
なんか、燃えてる!!
部屋の中で燃える要素があるものといったら、いつかアメリカ大使館にぶん投げるつもりでこつこつ作っている発火装置付きの爆弾か、あとはストーブしかない。
このストーブというのが、たぶん俺が生まれた頃からこの家にあるレトロな電気ストーブで、自動停止タイマーはもちろん、煙感知器なんてのも全く付いていない昭和のシロモノなんだ。
十分な電気さえ与えれば、やがてこの地球上の全てを燃やし尽くし、これを死の惑星とするまで止まらない。
そんな死神御用達のストーブに目をやると、羽毛布団が思いっきりストーブに覆いかぶさっていて、そこから猛烈な煙と、10センチくらいの炎が立ち上っている。
「すでに火事じゃん!」
もし、ここで部屋を飛び出して逃げれば、自分の命は助かるかも知れないけれど、それは実家と家財道具全てを失うことを意味する。
多分だけど就職なんかしている状況じゃなくなだろう。
ここで、やっぱりもう一回寝るというのも選択肢としてはありえる。
自分で認識できないことは存在しないという便利な考え方があるらしい。ここでもう一回寝てあの世へ行っちまえば火事は無かったことと同じことになるという画期的で前向きな考え方だ。
いや、でも「逃げちゃだめだ」。
エヴァでシンジくんがそう言ったのも、使徒によって自分の家がめちゃくちゃに壊されて家財道具を全て失うことが嫌だったからなんだ。
それに、もう一回寝るにしたって第一寝苦しい。クーラー付けないといけないが、そのためにはフィルターを洗い直す必要があってとても面倒くさい! 俺は家事のうちとりわけ面倒くさいと感じることが、洗濯物を干し、そしてたたむことと、その次にこのクーラーのフィルター掃除なんだ。
急がなくちゃな。
そう思った青山少年は、お風呂場でバケツに水をいれ、これを布団にぶっかけて消火することを決意。一人の孤独な消防隊員は、階段をまるごと飛び降りる勢いで風呂場へ急行した。
そしたらこの時に限って風呂場にひしゃくみたいなのしかないでやんの。
あのな、ちょっと蒸し暑いから足に冷水かけにきたとかじゃねえぞ! もう10センチの炎なんだよ!
大きなバケツは多分どこかで乾かしてあったんだろうがこの状況でパニックになっているから探す気にもならない。
とりあえず素直にこの柄杓へタプタプに水をいれて火事現場へ舞い戻る可哀想な消防隊員。階段を駆け上がるついでに3分の1は失ったけどこれもパニックだからどうでもいい。
これを火柱に向かってぶっかける!
すると、意外にも炎が消えてくれた。でも、まだ布団からは煙が上がっている。
ここで、青山少年は急いで窓を開け、家の前の空き地に向かってこの布団ごとぶん投げた!
これは、燃える布団自体を自分の視界から消してしまうことで「そんなことはじめから無かった」ことにするという画期的な手法を採用したものだ。自分で認識できないことは存在しないという便利な考え方があるらしい。この男の性格がこういったところに現れている。
その後、冷静さを取り戻してから、空き地で煙をあげている布団に水をかけて完全に沈下。布団はそのまま燃えるゴミの袋にぎゅうぎゅうに詰めて廃棄したのだった。
余談だが、その後、母から「あの羽毛布団どこやった?」と早速聞かれたものの、「ベランダに干してたら、強い風が吹いてどこかに飛んでいった」などという、「布団が吹っ飛んだ」という古典的なダジャレがそのまま具現化されたような言い訳を使ってこれを切り抜けた。
母は今でもたまに「お前は布団を干して無くしたよな」などと俺を非難するが、本当のことを言ったら腰を抜かすだろうから一生このままでいい。
ーーー
以上が、勇敢な消防隊員青山少年の武勇伝として俺に子供ができたら常に語ってやりたいエピソードのひとつとなったんだが、ひとつ、今思い出してもゾっとすることがある。
この件の最初に、俺が昼寝から目覚めて、部屋に充満する煙から火事に気がつくところあるよな。これって普通に目覚ましのアラームで起きたからな。
つまり、火の熱だとか、煙の息苦しさとかじゃなくて、たまたま「1時間くらい昼寝すっかな^^」とかいって設定しておいた携帯電話の目覚ましアラームの音で起きたんだこのお間抜けさんは。
きっとアラームが無くたっていつかの時点では起きたんだろう。でも、その時にはきっと、風呂場のしょぼいひしゃくだと1万回くらい水ぶっかけなきゃならないくらいの炎に部屋が包まれていたことだろう。
俺はスピリチュアルだとか霊的な現象だとかは信じないから、このことについては科学的な考察に留めるしかないが「運命の女神の大いなる加護によって守られている」。
このエピソードも、この前の「合コン行ったら運がいいやつを見つけろ」でも使えるかな??
夏が終わり、これから寒くなる中で、ストーブつけっぱで昼寝しようとするみんなに言っておく。ちゃんとスマホのアラーム付けといたほうがいいぞ。