ツイッターなどのSNSでは、次のようなハイレベルな議論をしばしば見かける。
Aさん「○○○は、XXXだ」
Bさん「お前は完全に間違ってる。ばーかばーかばーか」
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突然だけど、計算問題をひとつ。
ここで「ばーか」と言われた人が、「それもそうですね、すみません」とか何とか言って、自分の意見を変える確率はいかほど?
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「ばーか」と言った方は、その確率をかなり高く見積もっているのかもしれないけど、現実にはそんなことはない(ご存知の通り)。
そもそも、他人の意見にわざわざ反論するくらいなんだから、その人には誤りを認めたうえで、自分の意見を変えてほしいと思ってる、ってことでいいですよね(もっとも、地球には一人くらい、嫌がらせ目的でわざわざ反対意見を直接言ってるマトモじゃない人がいるかもしれないけど)。
そういう場合、こうした方法(「ばーか」法)はとても悪いやり方だと思う。
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でも、うん、この例はちょっとわざとらしかった。
それなら次のような方法はどうでしょう。
Aさん「○○○は、XXXだ」
Bさん「お前は間違ってる。理由1、まず○○○は・・・(略)次に、理由その65535、○○○は・・・」
こんなふうに相手を完全に打ち負かしたとしても、相手は必ずしも自分の意見を変えるとは限らない。
というのも、いくら事実を並べられたとしても、人の意見を(必ずしも)変えるわけじゃないからだ。
でも、それってどうしてでしょ?
これは、僕らのプライドが深く関わっている。日本語ではメンツとか言うけど。
とりわけインターネットでは、プライドを守ることは、事実を語ることをよりも大切だと思われている。
例えば、Twitterやネットの掲示板では、「謝ったら死ぬ」と考えている人がとてもたくさんいる(ご存知のとおり)。
もちろん、そんなのは間違っていて、死ぬよりは謝ったほうがマシなんだけど、一度でも謝れば、そのことで見下されたと感じ、もはやTwitterでの発言権を失い、アカウントごと消して逃亡しなきゃいけないと感じる人が大勢いるようだ。
そう考えている人に、僕が(あんたが間違っているよという)残酷な事実を突きつけたらどうなるか。
そのことを認めないのは当然として、更に悪いことに、謝った事実に基づく態度をさらに固めてしまう可能性もある。
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で、そしたら、結局どうしたらいいんでしょ?
いくつか方法はある。
要するに、彼らのプライドを守ってやれば、効率よく(?)説得に向けた歩み寄りを始めることができる。
そのために大切なのは、彼らを直接否定しないことだ。
でも、それでどうやったら、彼らの意見が誤っていると指摘できるんだろうか。
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例えば、「コロナウィルス感染症に対する日本の取り組みは、海外に比べて劣ったものだった。なので結果もひどい有様だ」という意見を言う人がいて、自分がこれに反論したいとする。
そこでいくら「いやいや、死者数を比べてみ? 海外に比べて日本ってめっちゃ死人少ないんだぞ?」とか言ったところで、彼らが意見を変えることは決して無い(例えば「死者数を隠している」とか、「死者数が少なければそれでいいのか」などという再反論が考えられる)*1
そこで、こういう場合、次のような方法で語りかけてみるのはどうだろう。
1.あなたは正しい(条件付きでね)
重要なのは、相手を否定しないことだった。
うん、あなたは正しい。でも、それが正しくなるには条件があって、その条件に当てはまっているかどうかを相手に考えてもらうというやり方。
具体的には次のように言う。
「うん、仮に海外に比べて日本の死者がすごく多かったらのなら、あなたの意見は正しいね」(でも実際そうじゃないですよね? という含意がもちろんある)。
でも、これはちょっと皮肉っぽい表現かもしれない。
2.あなたは間違っている、でも、間違うのも仕方ないよ。
これは「1.」に比べると、相手の間違いをもっと直接的に指摘する表現だけど、相手のプライドを守る一つの方法でもある。
要するに、あなたの意見は間違ってるんだけど、その間違いにはきちんとした理由があるので仕方ないよと、逃げ道(または、「振り上げた拳を下ろす場所」とも言う)を用意する。
「あなたの意見は間違ってるけど、今は正しい情報を入手するのが難しいから、そう思うのも仕方ないよね(気にすること無いよ)」
まあこう書くと(タネを知っているのもあって)イラっとするけど。
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議論の内容は、またしてもコロナウィルスについて(というか、それ以外みんな話してない)。
コロナウィルスの感染数でいうと、日本は外国に比べてとても少ないことが知られている。
が、あるユーザーAさんが「そもそも日本は【検査数】を公表していないから、こんな数字には意味がない! 日本政府は検査数も公表すべきだ!」という書き込みを行った。。
その書き込みを見た別のユーザーBさんは、次のように反論した。
「日本政府(厚生労働省)は検査総数を公表してるよ。でも、ホームページの分かりづらい場所に書いてあるし、マスコミもそれを報道しないから、Aさんが見つけられないのも仕方ないね。」
これを見て、俺は「間違ってるけど、あなたが間違うのも仕方ない」という「メソッド2」の実践だと思った。
で、そのように言われたユーザーAさんは、次から批判の矛先を日本政府でなく、マスコミに向け始めた。
このように、何かに怒ってる人がある程度でも説得される様子を見るのは、インターネットの世界では非常にレアな出来事だと感じた。
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3.そんな間違いをするなんて、本当にあなたですか??
「あなたの意見は○○って点で間違ってるけど、あなたの本来の頭の良さだったらそんなこと言わないですよね、いったいどうしちゃったんですか?」という、プライドを守りつつ反論する方法がこれ。
「そんな事を言った自分はマトモじゃなかった、うっかり見落としていた」という逃げ道を確保すると同時に、普段はもっと頭良いですよねというヨイショもするというハイブリッド=プライドお守りシステム。
これが大いに活用できる場合が「前に言ってたことと違う」ことを指摘するときだ。
ここでバカ正直に「お前、前に言ってたことと違うじゃん」なんて事を言ったら、相手は「自分がいかに一貫性があって、今回言ってることも合理的か」と説明することに一生懸命になると相場が決まっている。こんなのは下策だ。
なので、そうではなく、「普段○○って言ってるあなたがこんなこと言うなんて、あなたらしくないんじゃない? どうしちゃったの。本当は○○じゃないのでは?」という言い方にしてみる。
ここには【私は過去の「まともな」あなたを守ります。だから、あなたも過去のまともなあなたを大切にして、今のまともじゃないあなたを変えてください】というメッセージが込められている。
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さて、この方法にはSNS限定の発展型があって「そんなこと言うなんて、もしかしてTwitter乗っ取られましたか??」「パスワード変えたら良いですよ」というもの。
これは良いよね!
俺が言われた側だったら「渡りに船」と思って、はいすみませんTwitter乗っ取られてました、パスワードはもっと強固なものに変更しましたとか言って済ませることができる。
現にこの方法で難局を乗り切っている有名人も多い。
(とはいえ、こうした有名人の場合は後から自分で「すみません乗っ取られてました」と言うもんだから、ちょっときまりが悪い。)
その人を嗜めることが目的だったら、暴言を目の前にして騒ぎ散らすのではなく、まずは「パスワード漏れてませんか」と諭し、もし乗っ取られてましたという話になったら「そうでしたか。お気をつけください」と一言って済ます、これが大人というものだと思う。
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うん、面倒くさい。
面倒くさいけど、人間ってここまでしないと自分の意見を変えないものだと思う。
そして、これはネットに限らないと思う。
誰かの意見、考えを間違いだと指摘し、改めてもらいたいのであれば、その人のプライドをどうやって守るかを考えるのが結果的には効率化につながると思う。
まずは逃げ道を作る。
誤りを認めたって死んだりしない、アカウントを消さなくてもいいんだよということを実感をもって知らしめる。
誰かを説得しようと思ったら、まずここから考えたらスムーズじゃないかな。