「ジョーカー」見たけど(感想)

話題のジョーカーを見てきた。以下その感想。

ネタバレ含むので、すでに見た人か、見るつもり無い人だけホムペの文字を反転させてください(インターネット黎明期のネタバレ防御手法)。

 

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ジョーカーといえばバットマンの宿敵とされている悪の人物で、とにかく残忍な犯罪者として知られている。

それも、彼にはヒーロー物にありがちなとてつもない力も無ければ、大富豪だったりするわけでもない(むしろ、腕力に乏しい浮浪者だ)。
そんな矮小な人物が、しかし、バッドマンも手を焼くほどの絶大な悪の力を持つに至る。


その原点は---------?


ってまあ、こういう「いかにして悪のヒーローは生まれたのか」って話は、映画や小説などでもかなりありがちな話になっている。

 

そんで、そのストーリーもだいたい同じで、


①:もともとは罪のない、恵まれない環境にある善人が主人公
②:たくさんの理不尽なことが起こる
③:社会を恨みたくなるようなことがこれでもかってくらい起こる
④:悪に染まるための決定的な出来事がおこる(だいたい母が死ぬ)
⑤:復讐の鬼となって殺しまくる

 

スター・ウォーズアナキン・スカイウォーカー(つまり、エピソード1から3まで)がまさにこのテンプレート。

「悪はいかにして生まれたのか」というキャッチフレーズを聞けばすぐ、僕らの頭にはこうしたストーリーが浮かんでしまう。否応なしに。

 

で、まさにそうした「悪はいかにして生まれたのか」をキャッチフレーズとする「ジョーカー」を見に行ったんだけど、、、

 

1.テンプレどおりの闇落ち物語

 

ほんと~~~~~~~にそのまんま上記の①~⑤な! ほんともう、次に何起こるか全部わかる映画だった。


こう言うと「はいはい、いかにも知ったふうな口な、上から目線のコメントでしょ?」と思われそうだけども、いやもうホント、テンプレートどおりの闇落ち物語。

 

①恵まれない家庭と身体に生まれたジョーカーは、しがないピエロのバイトを続けながら、いつかはスターのコメディアンになることを目指している。でも、精神的な障害もあって全く実を結ばない。


②そんなジョーカーを気持ち悪がったり、馬鹿にする街の住人から暴力を振るわれ、同僚にもいじめられる。


③生きがいだったバイトも首になって、心理カウンセラーもクビになる。更には、自分のコメディアンとしての能力をかってくれていたと思っていた憧れの人が、実は自分のことをバカにしていたことも分かってしまう。


④そして決定的なことに、唯一の心の拠り所だった自分の母親が、過去にずっと自分のことを虐待し続けていた、憎むべき人物だったこともわかり、これで本当に世界で一人ぼっちになってしまう。いわゆる「無敵の人」の出来上がり。

 

・・・以上、こんな、世界を憎むための「理不尽の土台」を作る胸くそ悪い話が、2時間の映画中1時間45分くらい続く。ずっとジョーカー可哀想。ジョーカー可哀想。というだけ。


で、


⑤最後にプッツンして、ジョーカーが人殺しを開始する。それは、本来なら犯罪として非難される行動なはずだけど、むしろ人々はジョーカーを悪のシンボルとして褒め称え、ジョーカーもそれによって自分の生きる道をやっと見つけたのでした。めでたしめでたし(そう、めでたし)。

 
・・・うーん、ツイッターでは楽しみにしているフォロワーの手前「面白かった」とか言っちゃったけど(俺は常に「親愛なる隣人」を志している)、正直ちょっと・・・あえて劇場で見るようなものでは無かったなあという感じ。

 

2.ジョーカーが何でその人を殺さなきゃならないのかよくわからない。

 

テンプレ①~④で積み上げた理不尽の土台を踏み越えて、どんどん自分の内面が邪悪になっていき、⑤で最後に猛烈な仕返しをする、それで観客もスカっとする(ほんとは犯罪だけどね~)! ならば、娯楽映画としてアリだし、そもそもそういう映画を見に行ったつもりだった。

 

でも、いよいよ⑤となってジョーカーが殺すのは、電車でウザ絡みしてきたやつとか、テレビでちょっと自分の悪口言った人とか、もう放っておいても死ぬだろう病床の母とか、自分にいたずらした職場の同僚だとかで、なんかスケールが小さい。見てる方としては「え、その人のこと、そんなに恨みます?」という人物たちを殺していくジョーカーのことを応援できないんだよね。

特に母殺しのところは、ずっと自分が愛していた肉親について、あんなカルテ1つ見ただけで殺意に変わるかね? と全く理解できず。

テレビのスター(名前忘れた)についても、自分のことを笑ってネタにしていたのは事実だけど、それで結果的にテレビに出られたじゃん! 

さらに言えば、最終的にジョーカーがプッツンする理由として、実の母が過去に自分のことを虐待していたという事実があるんだけれど、そういうこと(虐待)がありふれている世の中で、「これがそんなに怒ることかねえ」と思ってしまう。

・・・という具合に、「その人、べつに殺さなくてもよくない?」という疑念がどの殺人についても湧いてしまう。「決まった正義も悪もない」というお題目は立派かもしんないけど、だからこそ誰の気持ちの中にも入っていけない状況になっている。

 

3.ジョーカーに哲学があるのか、単なる気違いなのかハッキリしない。

 

このように、ジョーカーの殺人はずっと「それでこんなことする?」という疑問だらけで、何かジョーカーの目線に立てないまま終わってしまった。

最後の心理カウンセラーを殺害した(ことを匂わせる)シーンなんてのもそう。

あれをやってしまうと、それこそジョーカーのはもはや哲学も信念もない単なる気違いのシリアルキラーになってしまう。

 

「気違い」という点でいえば、今作のジョーカーは酷い精神病を患っている人物として書かれていて、最初から最後まで彼が何を考えて行動しているのかいまいちよくわからない。彼の狂気ともいえる殺意が、散々理不尽な目にあった結果生じたものなのか、精神病が悪化して本当に頭がおかしくなってしまったからなのか・・・よくわからないんだよね。

 

殺人をはじめたのと同じ頃に向精神薬の処方が止まったし、アパートの隣人を勝手に自分の恋人だと思いこむような妄想を本当のことだと思いこんでいるし、この男は本当に狂ってしまったのか、それともやっぱり人として明確な目的や哲学に基づいて行動しているのか? わからない。

 

母親とのあれやこれやとか、友人やスターを殺害することとか、ラストシーンに至るまでの全部がジョーカーの妄想かもしれない。というかそういう疑問の余地が残るように作られている。でものおかげで、共感どころか、ジョーカーが観客をおいてどんどん暗闇の方へ走っていってしまう感じがする。 俺たちはいったい何を見てるんだ?

 

ジョーカーはきちんとモノを考えられて、善悪の判断があって、心優しくて、理不尽にきちんと傷ついている・・・という確証が持てない一方で、隣人の家に平気で入ったり、自分の家の冷蔵庫の中に隠れたり、そういう異常行動ばっかり見せられるもんだから、彼の中で積もり積もっていっているだろう殺意や恨みが殺人に繋がっているんだということが、僕らの中でしっくりこない。

要するに「頭のおかしいやつが、頭のおかしいことをしている」以上の感情が湧いてこない。

 

(でも、それが実は狙いで、製作者も観客の同情なんかかう意図は全くなくて、ただジョーカーという気持ち悪い殺人者が出来上がるまでの過程を見てもらって、ただ嫌な気分になってほしかったのかもしれない。それなら納得できる。)

 

そして、「ジョーカーはまともじゃない」と一度思ってしまえば、それまでの「理不尽の土台」が機能しなくなり、それどころか、それらの出来事が、観客からすればなんか単に嫌な気持ちにさせるジョーカーいじめでしかなくなってしまう。ぐったり。

 

(見どころ)

 

ただ、ずっと鬱屈していたジョーカーが、人殺しをすることによって自分の存在が認められ、だんだんと力強く、美しく、より生き生きと、そして更に残忍になっていく様子は、見ていてゾクゾクした。

人殺しをした夜、自分のアパートに戻ってきたジョーカーは、この映画で随一の美しい踊りをする。ここの、彼の満足感に共感するような人であれば、この映画はかなり響いたんじゃないかと思う。

 

劇中で、ジョーカーが最も嬉しそうにしていたのは、自分の殺人が報道されたり、周囲にもてはやされた時(そしてそれだけ)だった。

自分の存在が他人に認められることで、ようやく自分は生きていることになる。自分の存在価値に苦しんでいたジョーカーの見つけた唯一の答えだったのだろう。

 

人を殺すことで、やっと自分は人々に認められる。そしてやっと本当に笑えるようになる。そのためだったら何だってする。ツイッターで承認欲求がどうのこうの言っている連中を見ると、こうした思考がごく身近にあることに気が付かされる。

これが、他者との間に埋没していく中で、何も特別な存在でない俺たちが誰かに承認してもらうことで生きがいを感じるという、現代の恐怖だ。

 

自分に何もない(と思っている)人が、人から存在を認められてはじめて生を感じる、その手段が皮肉にも誰かを殺すことだった。それが物語の舞台である治安最悪な「ゴッサム・シティ」でバッチリ組み合わさった。だからジョーカーは生まれるべくして生まれたんだ。

そして「ダークナイト」では、その悪意にまみれた(とジョーカーは思っている)一般人たちが、心からの善意を示したことで、ジョーカーはバットマンに敗れたのであった。

その意味でこの映画は、ジョーカーの「悪」というラベルが貼られた生きる意味について知る手がかりにはなる。


でもまあ、そのために、それまで2時間にわたるジョーカーイジメや、精神病の描写とか、母親とのあれやこれやとか、大したこと無い人間の殺害とか、本当に必要だったかなという感じ。テレビでやったときに見たら良いです。