Amazon書評(成功する人は偶然を味方にする、日経平均3万8915円、日本再生は、生産性向上しかない!)

 

 自分が成功した幸運に感謝して、もっと税金を払いましょうという本
成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学

成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学

 

 

まず、この本って成功するための幸運を掴み取る方法のようなハウツー本ではないのね。
内容に沿った正しいタイトルをつけるならば「あなたのその成功、わりと”運”」とか「成功したなら税金払おう、だって運だもん」とかそんな感じになる。このタイトルで内容を勘違いして手にとる人が多いと思われる。

原著のタイトルは「Success and Luck: Good Fortune and the Myth of Meritocracy」(成功と幸運:運と実績主義の神話)で、これであっても本文中で著者が「タイトルが誤解を招くかも」と言っているのに、それを更に意訳した本題はどうなのかなあと思う。

 

さて、著者が本書の中で繰り返し述べているのは、とにかく成功をもたらすのは本人の努力だけでなく、例えば優秀に生んでくれた両親をもったとか、誰々にサポートしてもらったとか、そもそもインフラの充実したこの国に生まれたとか、そういう「運」が重要なのだということ。なんでもかんでもお前の実力じゃねーんだぞと。


でも、今のアメリカの成功者は、自分の成功の大部分を実力だと感じ、それゆえ、自分で稼いだお金を公共投資(税金を支払ったり寄付したり)することに嫌悪している。自分の実力で稼いだ金なんだぞと。(これはそのとおり。心理学的にも実証されていて、成功者ほど「運」を軽視して、逆に不幸な目にあっている人ほど「これは運が悪い」と考える傾向にある。)

その結果、アメリカではとくに教育関係を中心にお金が回ってこない現状がある。


で、本書は、そうした現状を変えるため、成功には運が必要不可欠だということを実証的、経験則的に説明しつつ、彼ら成功者に「自分の成功は運によるところが多かったんだなあ」などと意識を変えてもらうことで、そういう「運」を提供した国家のインフラ維持のための高い税率に納得してもらおうという「富裕層への重課税の正当化」が目的である(タイトルとかけ離れてるなあ!)。

 

日本でもいわゆる「意識高い系」と言われるような人らがいるから、そうした「自分の成功が全部自分の能力によるもの」と思っている成功者の姿は想像しやすい。でも、彼らが本書を読んでハっと幸運の女神の加護に目覚めるかと言うと・・・。こういう語りかけを続ける必要があるんでしょうな(と著者も言っている)。

 

ところで今、このレビューを書いている時、日本ではある富裕層の住む住宅街に児童相談所を設置しようとしたところ「土地の価値が下がる」等の理由で大反対にあったという報道がされている。
まさにこの本に出てきた「成功者」が、その富を公共投資に向けることを嫌悪している状況そのまま。そういう意味では、今(願わくば彼らが)この本を読む価値はあると思う。

 

 

 日経平均の平成バブル崩壊に関するエッセイ&解説本。わかりやすい。

 

 

1990年1月からはじまる日経平均バブル崩壊を、野村投信という現場で見てきた著者による回顧本。

これまで日経平均バブルの崩壊については、様々な識者から「資産価格が実態を超えすぎたから」だの「土地価格が下落したから」だのという説明がされているが、そうした説明は往々にして「なぜ1989年12月までバブルが膨らんだのか」、そして「なぜ1990年1月から崩壊が始まったのか」に答えられるものではなかった。

どうして12月まで3万8900円で日経平均を買った人たちが、年が開けて突然「割高だ」と宗旨替えして売りに走ったのか?

著者はそうした疑問について、とりわけ金融市場における「制度変更」に着目してその必然性を見出し、1989年12月にバブルが最高潮に達したこと、翌月から大暴落が始まったことの原因を解説する。

(銀行の会計制度変更と、地球の裏側で起きた金融危機が発端となり、そこで損失を抱えた日本の機関投資家たちが外国人の裁定取引のカモにされたことで炎上したんだそう。)

 

それと同時に、これまでまことしやかに語られていた「俗説」についても、データをもとに否定。
私もこれまで日経平均バブル崩壊は、大蔵省の「不動産融資総量規制」通達が原因だと思ってました(実際には日経平均崩壊と時期がリンクしていないうえ、総量規制解除まで土地価格に目立った変化は無かったそう)。

このように、本書が優れているのは「あの時こうだったんですよ、いやー大変でした」というエッセイに終わるのではなく、なぜバブルが起き、そして崩壊したのかという分析がデータとともにしっかりと語られている点。


そして、それが非常に平易な説明、かつ論理的で、知識をひけらかすために複雑な説明をしたがる金融業界の人にあるまじき分かりやすさ。元野村の人の本なんて9割自慢話でしょ・・・と思っていたら全然違った。


先物って何?」からはじまり、「裁定取引のやりかた」、「裁定買い残の解消売りで株価が下がる仕組み」まで明快に説明してくれて、これまで何となく知ったつもりになっていた部分まで知識が整理されて、これだけでも読む価値がある。

また、バブル時代の野村を始めとした証券会社の(しばしば横柄な)営業手法やトレード手法なんかもざっくばらんに語られていて、エッセイとしても面白い。

それからオマケに、単なる昔話に終わらないよう仮想通貨バブルがなぜ起きたのか(トランプと海外ヘッジファンドのせいかもしれないって)、仮想通貨バブルと平成の日経平均バブルと何が違うのかについても論及。

アベノミクス効果で日経平均は26年ぶりにバブル後最高値をつけ、そして現在世界同時株安の危機に差し掛かっている今、平成バブル崩壊の状況を振り返ることは無駄にならないだろう。

 

■イギリス人の社長の提言する生産性向上論。具体的(でも3割ぐち)。

 

この20年間にわたって日本の低成長が続いていることについて、よく「生産性が向上しないから」という話を聞く。
が、そもそも生産性って何? 具体的に何をどうすれば日本の生産性はあがるの?
こうしたそもそも論について語られることは意外と無かったが、本書ではそれを外国人がやった(本来こういう本を日本人がバンバン書かなきゃいけないと思うんだがなあ~)。

 

著者は元ゴールドマン・サックスのアナリストで、現在は日本の工芸会社の社長をしているイギリス人。
その目線から、日本社会のマクロ的・ミクロ的な「非生産性」について事細かに指摘する一方、
イギリスが金融を中心としたサービス立国を成し遂げた経験を参考に、今後の日本の進むべき道を提示する。

具体的に著者が取り組むべきとしているのが「観光」と「女性の活躍(ウーマノミクス)」。
観光については、日本には1泊数百万円するような超高級ホテルがほとんど無く、海外のセレブが「泊まるところがない」状態にある。
日本企業のそうした基本的な海外マーケティング不足を指摘しつつ、日本が相手にするべきはそうしたお金を落とす「上客」なのだという(そして、そのために「IR(統合型リゾート)」が必要)。

また、女性の活躍は、現在女性に任せている仕事をそのまま拡大したところで生産性の向上は見込めず、仕事の「質」自体を変えていかなければなならないのだという。
日本のあれがだめ、これがよくないという話の一方で、こうした具体的な方策も、データとともにしっかり書かれているのが本書の価値といえる。
IRを「ギャンブル中毒になるからだめ」という一点張りで否定するのは(なんでパチンコ、競馬はいいの?)、まさに本書で登場するような、現状を変えようとしない、論理的な話をしないことで、日本の低成長を牽引(?)している人たちに該当するんでしょうなあ。

とはいえ、全体のうち3割くらいは「なんとなく日本で嫌な思いした」という単なるグチも入っていると思われるので、その点は適宜読み流したほうが良い。
たとえば、高級料亭で閉店時間無視してたら追い出されたとか(時間は守ろうよ!)、深夜にダンスができないとか(そういう騒ぎ散らす観光客が、日本が呼び込むべき「上客」だとはとても思えないなあ)。

観光客が目当てにするのは「おもてなし文化」などではなくて「観光資源」だ(P.66)と言いつつ、そういうところの「気前の良さ」「寛容さ」を求めるのは読んでいて矛盾に感じた。みどりの窓口での苦労話などはほとんど著者の「最近あったむかつくこと」レベルの話だろうと思う。

また、最後の二階幹事長との対談は具体的な話は無く、なんとなく偉い人に会えたから挿入してみましたくらいのもの(著者だけが熱心に話しているだけ)。

こうした点を割り引いたとしても、これまで漠然と「生産性ってなんだろう」と思っていたことが整理されるので、読む価値はある。
デフレ不況をマネーの量を調整して抜け出す一方、同時に、こうした努力もしていかないとグローバル化の世界経済では競争力を維持できない。その意味で、著者の提言には真摯に耳を傾ける必要がある。