■「情報の正しい受け取り方」を指南する良い本。データも役に立つ。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
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良い本。
「ファクトフルネス」を一言でいえば「冷静になれよ。データを見てみ?」ということ。
とても賢い人でも、予防接種を受けている子供なんてせいぜい世界の5割くらいだと思っている(本当は9割受けているんだって。僕も知らんかった)。
本書ではそういう「賢い人とされている人たちが、絶望的なまでに世の中について誤解している」アンケート結果がたくさん出てくる。その結果はランダム以下。どうしてこんなことに? (こたえ:1つめ、モノを知らないから。2つめ、本能のせい)
本書は、人が自然にもって生まれるいくつかの本能(何でも悲観的になりがち、なんでも運命だと思いがちなど)と、それら本能から生まれる世の中に対する誤った認識をみなさんに紹介する。
そのうえで、本書は正しいデータを提示して皆さんにそれらの認識を改めてもらい、「そもそもどうしてそんな認識を抱くのか」という原因を探っていくのがねらい。
(これは上記したように本能のせいなんだそう)。
本書でなされる世界の貧困問題に的を絞った解説は、とりいそぎ「今の世界ってこんなになってんだ」という事実認識のために非常に役立つ。(へ~裸足で生活してるような極貧層ってもうこんな少ないのね。)
本書は更に、今度はやや心理学的な目線から、人の持つ本能から生じる危険で有害な思考を明らかにして、僕たちに正しい思考に基づく世界の理解を呼びかける。
(貧困層への支援なんて結局無駄だからやめろ? 本当はこんなにも成果出てるんだよ? のように)
こちらはかなり実践的で、ダニエル・カーネマンの著書「ファスト&スロー」の内容(素早いけどいい加減なシステム1、遅いけど正確なシステム2)を想起させる読者もいるだろうと思う。
こちらはあれをさらに拡大したバージョンと思って良い。この点で、本書は単なるの経済事情のエッセイではない。
インターネットで手軽にデータを入手できる現代において、毎日のようにツイッターのデマが拡散したり、一部の活動家による歪んだ情報を真に受けてしまうのはなぜだろう?
この本はそれに対する答えを提示するとともに、今後、僕らがそういう情報に接する時の態度を矯正してくれるだろう。
翻訳も非常に読みやすいうえ、著者自身のプレゼンテーション方法がお上手で退屈しない。難しい本ではないし、中高生にもおすすめ。
■ややテーマを詰め込みすぎた経済エッセイ。今後に期待。
著者はトルコ人でありながら東大→野村證券を経て、現在は投資家。
紳士的かつ知的で、日本のことをとても魅力的に感じているのが本書を通じてもよくわかる・・・のだが、内容としては、日本国内の経済問題、米中新冷戦、仮想通貨にAI、日本企業の魅力、自己流投資術の話など、様々なテーマに及ぶ一方、ボリュームの問題からとくにデータ等を用いた詳しい説明があるわけではなく、著者がツイッターなどを通じて繰り返し述べていることのおさらい。
第1章は、メディアなどで伝えられている日本悲観論を否定するとして「AIで仕事消滅」「人口減少」問題などを取り上げている。
著者は、メディアがこうしたものを悲観的に伝えるのは、将来何十年に渡って同じ技術が継続すると考えているからなのだという。
でも、例えば、VRやロボットスーツの技術が向上すれば、現在日本に溢れかえってる高齢者の経験・知識をそのまま現場で活用できるので、日本は世界一の知的財産を保有する国になるかもしれない。(P.31)
著者の得意なフィールドではこういう具体的な提言があって読むのが楽しい。
ただ、人口減少問題については「むしろ歓迎すべきだ」としたうえで、ある程度人口が減れば自給自足が可能になる(P.33)、核家族ならば親の家を自分が使えるから気軽に勤め先を辞めるくらいのチャレンジができるようになる(P.35)とあるけれど、うーん自給自足はメリットがよくわからないし、自分は親から譲ってもらう家があればいくら失敗したってスネかじればいいけど、その後の世代はどうするんだろう・・・という疑問は残る。
第2章、第3章はそれぞれ米中の新冷戦の話と、仮想通過について。
前者については著者独自の視点による世界情勢の解説で、知らなかったことも多く参考になる。
他方で、仮想通貨については唐突に出てくるうえ、仮想通貨とは何か、どういう仕組みなのかという、他の入門書でも書かれているような内容(今後の見通しについては記述がある)。
そして両者とも、とくに日本がどうのこうの無いです。
米中の緊張の中で日本が存在感を増す方法だとか、仮想通貨を活かした日本経済の再生だとかそういう話はなし。
多分テーマによらず著者が書きたかったから書いたんだろうと思われる。
第4章はまた日本の話題に戻り、そこでは消費税と働き方改革について触れられているが、ここの書きぶりはあんまり論理的だとは思えない。
「金持ちでも貧乏人でも同じ税率がかかるというのは平等ではない(中略)高額商品の場合は比率を高くするなど、消費税を商品別に設定したほうがいいだろう(P.123)」
などと言った(なるほど著者は商品ごとに税率設定すべきと考えているのね)、その2ページあとで、今度は軽減税率に反対しつつ、
「軽減税率の導入によって消費税が複雑化することとなり(中略)様々な仕事がふえて多くの運用コストが発生」
「仮に軽減税率を導入する場合(中略)どのように「生活必需品」と「贅沢品」を区分するのか」
と言ってるけど、さっきそうしろって言ったじゃん!
(更に言えば、消費税に反対する文脈で「私は、基本的には金持ちほど税金を払うべきだと思っている(P.123)」とあるけど、消費税ってまさにそういう税金じゃないの? 著者が例として挙げている、金持ちがランボルギーニを買った場合と、貧乏人がパンを買った場合で、どっちが「多く税金を払って」いるんだろうか?(所得の中に占める税負担の話をして、これを不平等だというならわかるが、そういう指摘は特になし。))
第5章は自分の考えている投資術であって、ふーんという感じ。
「10銘柄に投資して、そのうち1つでも株価が10倍になれば資産が10倍になる(P.195 )」とサラっと書いてあるが、よく意味がわからない。
100万円ずつ10銘柄に投資(1,000万円)、うち1銘柄が10倍、他9銘柄が一定なら合計1,900万円で1.9倍にしかならなくない?
以上、読んでいて、著者なりの誠実さとか日本好きなんだな~という気持ちが伝わってきて気分がよくなる一方、書かれていることはツイッターの延長のようなことなので、そのつもりで。
この内容だと、アベノミクスを支持している人にとっては(心地いいものの)自分の説を補強する材料になることはなく、また、逆に反アベノミクスの人にとっては自説を改める契機にならないだろう。
著者は多才でサービス精神があるがゆえに色んなことを書きたくなるのかもしれないが、もっと自分の好きなことに絞って掘り下げて書いたほうが嬉しい。
■一貫性の無い本。
おそらく中高生を想定読者とした「お金」の考え方に関する本。
でも、セーフティネットがどうとか、クラウドファンディングがどうとか何の説明もなく出てくるけど・・・わかるかなあ? やさしい漢字にも丁寧にルビが振ってある一方で使われている単語はところどころ難しい。
第一章はお金の成り立ちとか役割とかにまつわる話で、まあわかりやすい。
が、本書で読む価値があるのはそこらへんまで。
著者が繰り返すには
「社会もお金が回ってはじめて健康でいられる」
「日本人も日本の会社も、お金を使うことより貯め込む方を優先している」(p.29)
とのことなんだけど、その一方で、
「値段が高いものには何か高い価値があるように錯覚してしまいがちです。それはお金の魔力のせいです」(p.54)、
「値段が高いというだけでそれをなにか凄いものと思い込み買う人もいます(略)冷静な判断ができていない」(p.55)
として、それが「無駄遣い」だと言っている。
「価格だけを判断基準とするな」と言いたいようなんだけれど、そもそも価格というのが市場でどのように決まるのかって話が無いままそうした断言がいくつかあるので、その流れで読み進むと「高い物を買う人はバカ」という感想しか持たない。(その一方で申し訳のように「でもそれは皆さんがどう考えるかです。私はそういうのにもお金を払う時があります」みたいに書かれているので、読者としては著者が結局何を言いたいのか分かりづらい。)
あと、全編にわたって「貯蓄をしろ」、「投資をしろ」、「借金するな」、「社会にお金を回せ」といろんな方向のメッセージが出てくるので、一貫性が無く感じる。若い頃はまず2割を貯金しろという話の一方で、自分が10歳のころから投資をして大儲けしたって自慢話があるのもそれに拍車をかけている。結局何をどうさせたいの?
また、著者は借金について非常にネガティブな記述を始終している(P.150~)けど、これも結局自分が大きな額を借り入れして大成功した自慢話で終わる。
そして結局「お金を返すのは、お金を借りるときに想像するよりずっと大変です」(p.152)ですって。金利がつくから当たり前の話なんだけど、そういう営み(ファイナンス)も含めてお金を回すってことなんじゃないかなあ。
ついでにいうと後半部分は「お金」とは直接関係ない「ミッション」だの「ビジョン」だのという暑苦しい仕事感の話で、わざわざこの本を読む意味はない。
本書のテーマ(のようなものをあえて探し出せば)「自分の効用をよく見極めて金使え」というのはそのとおりだけど、それだけの話を190ページに渡って書いただけのありふれた啓発本。
でもむしろ借金して起業しようとか熱上げてる子に現実見させるにはいいかも(意外にもネガティブな記述が多い)。
むやみにアニマルスピリットすすめてる本が嫌いだから、裏を返してその点で★2かな。