書評【やさしい基本情報技術者講座、Learn Better、スタンフォード大学で一番人気の経済学入門】

 

■情報処理の理屈がわかるようにはならない。

 

過去のシリーズからも散々に言われているとおり、本書は説明と説明とが飛び飛び、不足しているどころか、論理的に繋がっていない文章が多く、特に初学者にとっては情報処理そのものが嫌いになるように作られています。
数学のテキストでよくある「計算の過程」が全く書かれていない。
例えば、2進数を8進数に変換するところは、3桁ごとに区切ればよい、ほら簡単でしょ、答えはこれです。とだけあって、既習者にとっては「そうだよな」であっても、おそらくこの本を手にする多数の初学者にとっては「え?なんで?」となるでしょう(なぜそうなるか、という説明はありません。この箇所に限られず)。

この本が「罠」であるのは、一見すると図表、イラストが多く、分量も多いことから、初学者向けと錯覚しそうな体裁となってはいる一方、その初学者が最も必要とする理屈の説明がすっぽりと抜け落ちているという本であるということです。

章ごとに掲載されている過去問についても、章のまとめとしての力試しといったものでなく、初めて聞く単語だらけ、本文内容ではとても太刀打ちできず、解説を読む→え、なんでそうなるの?(書いてない)→そこでまた情報処理が嫌になります。

著者は東大の経済学部を出ている才女、おそらくこの説明でも理解するには十分であると感じるのでしょう。
よくある「自分ではわかってる人のする、分かりづらい説明」を聞いた気分になれます。このシリーズは毎年のように改善されていないテキストが出るが、まったくオススメできない。

 

■実用性も高い「学び方」の本
Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ

Learn Better――頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ

 

 

まるまる一冊「学習を効率的にやるにはどうしたらいいか」について語られた本。

学習と言っても、いわゆる受験勉強などの他に、趣味のレゴブロックだとかバスケットボールとか、いわゆるスキルを伸ばすにはどうしたら良いのかについて論じられている。

著者はもともと勉強の落ちこぼれだったのが、あるとき勉強することの意義に目覚めて今の役職にまで上り詰め、その経験則や、科学的に実証されている勉強の方法が誠実に記載されているのだけど・・・役に立つ部分とそうでない部分に分かれるという印象。

「お勉強することに意義を感じている人は勉強効率が高まる、好きこそモノの上手なれってやつ。だからお勉強にもそれをやる意味を持ちましょう」みたいな話については、そのとおり。でも、そもそもどうやって意義をもちゃいいんだ? やる気がいまいち起きない人にとっちゃそれが問題なんだ。

また、効率よく勉強をするためには、まず基礎的な事実情報をきちんと習得する必要があるとのこと。例えば日本の戦後の歴史を学ぶのであればその時代の総理大臣の移り変わりを先に覚えるなど。
でも、その事実情報の習得ってのがかなりハードル高いんですわな。

大体の人の学習が、その最初のハードルを飛び越えることなく終わっていくんだけど、そのあたりは著者にしてみれば「このくらいはやるんでしょ」という前提があるように思う。

で、その辺りは読み飛ばしても、残りのテクニック的な部分は実践的で読むに値する。

 

・勉強している間はスマホを机の上に置くな。スマホをいじらなくても「視界に入る」だけで集中が大幅に低下することが知られている。


・勉強をしている最中の自分への呼びかけは、集中力と思考力の維持に効果的。例えば「この問題はそもそも何を言っているんだ?」のように。

 

など、実用的でしょ? 他にもある10数個のハウツーは今すぐ使える。
資格試験などを頑張ってやってはいるものの(まず勉強嫌いではない)、イマイチ結果についてこないような人は読んで損しないと思う。

 

■市販の経済学入門系の本ではダントツのわかりやすさ 
スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編

 

  

ツイッターのフォロワー達から「経済学の入門で良い本ってない?」と聞かれるたびに100万回くらいオススメしているのが本書。
最近は経済学入門系の書籍がたくさん出ていて、そのためのコーナーがある本屋も珍しくないが、その中でも段違いにわかりやすく、また内容もしっかりしている。おまけにかなり読みやすく、数学を避けてきた人にもきちんと「言葉」で説明がされている点も良い。

「数式がない」本は、しばしば、易しい言葉で表現可能な範囲の、うわべだけの知識に終わりがちだ。どのように価格は決まるの? なんで独占が起こるの? そういう時に「何となく」で終わってしまいがち。
が、本書では可能な限り、順を追った論理的な説明がされていて、それが中途半端に終わっていない。それは有名大学で人気授業を行う著者の能力のほか、翻訳者の(監訳者でなく笑)誠実な努力にもよるものでしょう。

 

「入門」と題してはいるが、お茶の間でニュースを見たり、新聞を読んだりする分にはこれで十分。
モノの価格はどうして決まるの? 公共事業ってどうして必要なの? について一般的な知識が身につきます。中高生のテキストにしたら良いと思うくらい。


姉妹として「マクロ」「ミクロ」とあるが、両方とも高いクオリティを保証します。
また、どちらを先に読んでも問題はないので、挑戦してみてください。

文句なくオススメ。