■リフレ派の理論を説明する漫画(経済学入門の本ではないので注意)
現在、過去の日本の経済政策の功罪を、作者と中国人妻(可愛らしい)の掛け合いで説明していくスタイルの漫画。
表紙はいかにも「経済初心者むけの入門書」的な印象を抱くものだけど、内容はそれなりに前提知識が必要なのでそのつもりで。少なくとも、本の帯にあるような問題意識(インフレとデフレはどっちが悪い? 医療費増で日本はつぶれない?)を持っていないと、ちょっと置いてけぼりになるかも。
なにせ1章でいきなり「マルクス経済学の真偽とは!」だから笑 (それなりにわかりやすくはあるけどね。)
だから、もしあなたが、インフレってなーに? デフレと値下げって何が違うの? などの段階であれば、本書の監訳者である飯田泰之氏がわかりやすい入門者向けの本を書いているのでそちらをおすすめ。
で、内容的には、基本的にいわゆるリフレ派(マイルドなインフレを維持してデフレを脱却し、安定した経済政策を目指そうという理論の支持者)の主張をなぞるもの。
これがかなり過激な表現で、上念氏や高橋洋一氏が繰り返し書いていることを漫画にしましたってイメージかな。
とはいえ、消費税しね、日銀逝ってよし! だけでなく(それが半分以上だけど)、前述のマルクスの主張の是非や、金本位制の歴史、日本の選挙制度の問題などもそれぞれ1章を割いて扱っているなど、リフレまんせーと言っておしまいってわけじゃない。
また、章と章の間の小コラムには「価格ってこう決まるんですよ」、「GDPはその1年で作られた付加価値です」などという基本的な用語の説明がされているのもホっとする。
でも、基本的にはリフレ派を支持している僕が見ても、なんか一方的な内容すぎるかなあという印象。
僕だって、本書がもっと読まれて、「国に借金があると大変だ」「公共事業なんてろくでもない」という病にかかっている人の目を覚ましてもらえたらとてもありがたい。
でも、デフレ下にある現状で、緊縮財政や消費税の増税を主張する人々のことを「なんであんなこと言うのかわからないので、言及できない」と言っておしまいなのはちょっと物足りなかった。
緊縮大好きな日本人の支持を集めたい(ろくでもない)政治家のみならず、それなりの学者にもそうした緊縮派や、金融緩和反対派がいるわけでしょ?
何の根拠で彼らがそういう主張をするの? そうした主張の妥当性はどうなの?
ここまで緊縮派を罵倒する内容であれば、その点を表現してほしかった(ページの関係から無理なのだろうけれど・・・)。
すでにリフレ派に染まっていて、さらに知識を整理したい人向け。
■グレーな問題に対する、人文主義を取り入れた実用ガイド
マネージング・イン・ザ・グレー ビジネスの難問を解く5つの質問
- 作者: Joseph L. Badaracco,山形浩生
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2019/01/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この手のビジネス本っていうのは、たまたま上手くいった個人的な成功を後から振り返って「これが正しい方法だ」と言ったり(これがビジネス本全体の9割かな)、あるいはひどく単純な問題をこう機械的に解けばいいと言ったりするものが多い。その方が本として作りやすいから。
でもそうした本が実際の問題の解決に役立つものでないことは、もうみんな分かってるんじゃないだろうか?
そんな「解法(?)」が単なる結果論に過ぎなかったり(同じことやって死んでいった人もたくさんいるだろう)、内容を分析して唯一無二の正解を導き出せるような問題なんてそもそも無かったり。
本書はそうしたビジネス本の安易なやり方を嫌悪する。
ひたすら考えろ。苦労して考えろ。本書はとにかく頭に汗をかくことを奨励する。
うん、わかったよ、でもどうやって? 本書はその「どう考えるか」を、5つの質問に沿って紹介するものだ。
本書の特徴は、あくまで「実用性」を目指したものでありつつ、その前提となる哲学として可能な限り「人文的なもの」を取り入れているところ。
人文的なものってなんだ? 本書にも「定義がさまざま」とあるように僕にもよくわからん。簡単に言えば昔ながらの知恵や哲学といったところ。
でも昔ながらの哲学って退屈だし、んじゃ実際どうやって生活に適用すればいいのかよくわからんのよね。
ブッダはこう言った、アリストテレスはこう、でもなんとかティウスは・・・やかましい! 俺の明日の問題を解決してくれよ!
本書にもそうした「誰々がこういった」は多く出てくる。
問題を解く鍵になるのは、そうした人たちによって鍛えられた哲学だというもんだから。
でも本書が偉いのは、そこで、こんな概念がありますよー偉人って頭いいですね、あやかりたいですね、で終わってないところ。
きちんと「実用ガイド」なんて項目を作って、それを日常の問題にどう適用するべきかが書いてある。
なんとかティウスがどうだとか鬱陶しい人はここだけ読んだっていいんじゃないかな?
それも、「みんなの影響考ええろ」、「とりあえず一晩寝かせろ」、「組織の政治を考慮しろ」とか、いずれも安易だったり、極端な方法だったりしない。
だから、裏を返せば実用といっても即物的な、簡単な方法じゃない。
上記したようにひたすら「頭に汗をかく方法」を提示するだけだ。
でも、それがグレーな問題に対する唯一のアプローチなのかもしれない。
ちょっとした効用を考えてみて、ああこれが正解だって、それってそもそもグレーな問題じゃないからね。
本書を読んで、グレーな問題が立ちどころに雲散霧消すると思っている人はちょっとアテがはずれるかもしれない。
(実を言うと僕もちょっとそうした期待を持っていたところもある・・・)
でもじっくり読み込んでみて、ここに書かれている質問を通じて日常の問題を考えられるクセがつけられれば、大きな財産になると思う。
■数学苦手な方への親切なガイドブック
本書は、経済学でどういう数学を使うのか、なぜ数学が必要なのかという話からはじまり、ごく簡単な経済理論を数学を用いて説明してみるという「経済数学のガイドブック」的な本です。
最近は経済学入門の書籍がブームなのか、書店でもそれ専用のコーナーが設置してある場合がありますが、それらの本は「数式いっさいなし!」をウリにしていることが多いです。
経済学は言葉で理屈を説明されても何となくわかるので、入門の段階では取り急ぎ数学を放置しても問題はないのですが、それはやはりあくまでも「何となくわかる」範疇を超えないでしょう。
とはいえ、数学をふんだんに用いたテキストを利用すると、1ページ目から何の解説もなくテイラー展開だの何だのが出てきて、そっと本を閉じる。。(そして経済学には見向きもしなくなる)
それでも我慢して、最適消費数量の求め方は暗記したものの、「なぜ微分してゼロと置くのか」がわからない。。
本書は、そうした両極端の本をつなぐ橋渡しとなるような本です。
説明されている内容は、需要供給関数の導出、「限界」の考え方など学部1年生レベルの経済学をやさしく説明しつつ、その背景にある数学的説明を高校レベルの数学を用いて行うというもの。
したがって、経済学はともかく、このレベルであっても数学を難しく感じる人がいるかもしれませんが、とりあえず「ふーん」と思って読み進められるのは、何より本書がとても誠実で丁寧なつくりとなっていることが大きい。
「はじめに」で著者が言うように、あくまでも本書は「読者が経済数学に入門する気になる勧誘広告」です。
本書を読むだけで直ちにマーシャル型需要関数を操れたりすることはありません
でも、その式が「いったい何を求めようとしているものなのか」は分かるようになります。
この「それで何なの? がわかる」というのは、とりわけ数学嫌いの文系学生にとって数学に取り組む大きなモチベーションとなります。
経済学部に入学したり、自己啓発で経済学を学ぼうとしつつも、数学が原因で経済学が嫌になりそうな人や、「数式いっさいなし」の本しか読まなかったが今後計算できるようになりたいという人の「第一歩」としておすすめしたい。
ただ、数学的な詳細が気になる読者のためとして、厳密な計算過程が書かれたページが随所に出てくるのだが、本文とはレベルがかけ離れているので、本書を読む読者にしてみると「なにこれ」と思って読み飛ばすしかない(きちんと読んで理解できる人は本書を手に取らないだろう)。
こういうのは巻末付録でも良かった。
そうした部分もあるが、全体として非常に有意義・好感の持てる本なのでおすすめ。
ちなみに、本書で紹介されているメゾンカイザーのアップルパイ、激ウマ。