簿記3級の「前払い(未払い)」問題について


今週末、簿記の試験がある。

ツイッターでフォローしている人たちでも、簿記3級に挑戦する人が多いので、明後日の試験で今更間に合うかわからないけど、ひとつ重要な論点について解説を書く。
保険料や家賃の「前払い」「未払い」について。


実は昨日までフィリピンに行ってたんだが、お土産話なんざ後回しだ。

 

【目次】

 

 

 


◯なんでこんなことすんの?

残高試算表や精算表の作成問題で出てくるのが、この「前払い」「未払い」の処理だ。
この問題は3級の範囲ではやや複雑であるうえ、必ず出題されるから、これができないと精算表などの残高が貸借で一致せずにパニックになる。

 

でも、大丈夫。出題されるパターンは一つだけなので、やり方を覚えるとすぐ出来る。この記事をもし目にしたら、手元の問題で何度か試してほしい。それだけで数点取れる。

(ところで、このタイミングで商品有高帳だのという点数にならない補助簿の問題集やってるヤツ、やめとけ。いまはただひたすら精算表をやるのだ)

 

ところで、なんでこんな「前払い」「未払い」の処理なんてするんでざましょ?
まず、その話を少しする。

 

なんでわざわざこういう処理をするのか。
向こう1年分の保険料を前払いしたのなら、もうそれでいいじゃん!

しかし悲しいかな、それでは、簿記のそもそもの目的である「一年間の利益を正確に計算する」ことが出来ないんだよ。


例えば、一年間の売上利益が10万円で、保険料が5万円の会社を考えてみる(他に収益、費用はない)。

この会社の最終的な当期純利益は、10万円-5万円の「5万円」だよな。


でも、ここで「保険料の支払いは来年でいいや」と、今年は保険料を未払にしてみる。
そうすると、売上が10万円なのは変わらないのに、保険料はゼロ円で済んでいるから(払っていないので)、最終的な利益は「10万円」に倍増してしまう。


逆に、来年は、今年の保険料も合わせて払わないといけないから(5万円+5万円の)10万円の保険料がかかる。そうすると、来年の利益は10万円ー10万円でゼロ円になる。

 

 【でも2年で見りゃ変わんなくね?】と思ったでしょ。

たしかにそうなんだけど、社長の成績だとか、企業の株価とかを計算するうえでは、【1年でどれだけ儲かったか】を正確に計算することが絶対必要で、そのために簿記ってのは生まれてきたんだ。

だから、「来年に利益を倍増させたいから、来年の保険料も今払っちゃえw」みたいなことは許さない。

以上の理由により、たとえ今年のうちに来年の保険料まで前払いしたとしても、それはきちんと「来年分の支払保険料」として計算する。

 

そのために、期末には


【(来年分の)前払保険料】 増やす 【(今年分の)支払保険料】減らす


という処理をして、支払保険料から前払保険料(来年の保険料)を引っこ抜く。

で、翌日の期首になったら、逆に、

 

 【(今年分の)支払保険料】増やす【(去年の)前払保険料】 減らす

 

という作業をする。

これで、去年に計上した前払い保険料が、めでたく今年の支払保険料になったってわけ。


簿記の参考書では、以上のような説明を「期末にはこのような決算整理仕訳を行います」としか説明しないから、俺達がなんでこんな面倒なことをしなきゃいけないのかわからない。目的がわからないと覚えられないし、勉強自体が苦痛になるから、まずはこうした説明をしました。

御託はこれくらいにしておいて、次からは、実際の処理の仕方を説明する。


◯パターン1 最初から「前払い保険料 ◯◯円」と言ってくる。

運が良いと、精算表や残高試算表の問題で「家賃の前払いが5万円ある」などと言ってくることがある。


これはもう大チャンス。今年の支払家賃から前払い分の5万円を引いて、その代わりに前払い家賃を5万円計上すればいいだけ。

 

前払家賃 50,000 / 支払家賃 50,000

 

で、実際の試験では「左右のどっちがどっちだっけ?」って必ず混乱するよな。
そういう時は、「まず、家賃を払った時ってどうだったんだっけ」とさかのぼって考えてみる。
そうすると、

 

支払家賃 50,000 /  現金 50,000

 

現金が減ったら右側に書く、というのは覚えやすいから、この仕訳がすぐに出てくるよな。で、そのときの支払家賃を前払家賃にするのだから、支払家賃を逆側に持ってきてあげて、


前払家賃 50,000 / 支払家賃50,000

 

という仕訳にすぐに行き着く。
そしたらこれを精算表に書き写すだけ。

 

◯パターン2 「向こう1年分前払い」

 最も多いのがこのパターンで、明後日出るのもきっとこれ。

例えば、【決算期が4月1日~3月31日で、11月1日に向こう1年分の保険料24,000円を前払いしている】という状況。


大丈夫。やり方覚えればかんたんです。

要するに「前払いしている分はいくらなんだろう」というのが計算できれば、あとはそれを今年の保険料から引っこ抜くだけ。つまりさっきのパターン1に持ち込める。

 

この時、計算ミスをなくすために、以下のように数直線を引いて計算すること。

このグラフをきちんと作ることができれば、前払い、未払いの問題で間違えることはまず無くなる。

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これを見れば、今年の「4月1日~3月31日」の中には、①去年の11月に支払った保険料と、②今年の11月に支払った保険料の2つが含まれていることがわかるだろう。


このうち、本当に「今年分の保険料」とすべきなのは、

①昨年の11月に払った保険料のうち、7ヶ月分

②今年の11月に払った保険料のうち、5ヶ月分

の、計12ヶ月分だとわかる。あとはこれを月割計算してやる。

 

ちなみに、「月割り計算」の仕方はわかるよな? 12で割ると、1ヶ月分の保険料が出るので、あとは出したい月の数だけ掛けるんだぞ。

 

で、普通、①はすでに計算して、今年の残高試算表に反映してある。
というのも、①の処理は、通常、4月1日になると同時にやるから。
俺たちがやるのは②の処理だけ。


今年払った保険料を12で割って、5をかけた金額(5ヶ月分)だけが今年の「支払保険料」となり、残りが来年7ヶ月分の「前払保険料」となる。

 

ここまでわかったら、あとは「パターン1」のとおりで、

 

前払保険料 14,000 / 支払保険料 14,000

 

というように、今年の支払保険料から前払保険料分を引っこ抜く。こんだけ。


たまに、①の処理もしていないパターンもある。
その場合は逆に、【今年の支払保険料を増やして、前払保険料を減らす】という作業を最初にやる。


さっきの例で言えば、
①昨年の11月に払った保険料のうち、7ヶ月分を今年の支払保険料とする。

24,000を12で割って、7をかける。

 

支払保険料 14,000 /  前払保険料 14,000

 

※気をつけること。

これ、気をつけてほしいのだけど、問題によっては「保険料は11月1日に、向こう1年分を前払いしている」とだけ書いてあって、試算表を見ると「38,000円」って書いてある時があるのね。

 

ここで、「あーはいはい。毎月11月に、38,000円払ってるのね。じゃあこれを12ヶ月で割って・・・」って思ってはダメね。

これ引っ掛けです。

というのは、この試算表に載ってる「支払保険料」って、今年の11月に1年分払ったのにプラスして、去年の11月に払いつつ、4月1日に「今年の支払保険料」として加えた分も入ってるから。

 

これはどういうことか。
さっき、「ふつう、4月1日になったら、去年の前払保険料を減らして、今年の支払保険料を増やす」と言ったのを思い出してほしい。


なので、この試算表に載ってる保険料には、

①去年払ったんだけど、きちんと今年の支払保険料にした7ヶ月分
②来年の分まで払った12ヶ月分

という、合計で19ヶ月分の保険料だということがわかる。
さっきの数直線でも確認しておいてほしい。

 

だから、この場合、月割計算をするためには「19」で割らないといけない。
そのためにも、数直線は絶対に作って欲しい。

なお、きちんと11月1日向こう1年分を◯◯円払ってる、と言ってきた場合には、何も考えず12で割ればよろしい。ここでグダグダ言ってるのは、そういう指示がなかった場合の対応ね)。


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◯未払も同じ。


今のは前払いの話だったけど、【未払い】も同じ。

・家賃の未払分が5ヶ月ある。

と言われたら、まだ支払っていない家賃を月割計算で出してから


支払家賃 ◯◯円  /未払家賃 ◯◯円

 

として、ホントは今年に計上すべきだった「支払家賃」を計上すればいいだけ。


どっちがどっちだっけ? と悩んだら、「本来、家賃を支払ったらどうするんだっけ」を考えるとわかる。

家賃を支払ったら

支払家賃 ◯◯円 現金◯◯円

となるのだった(現金は減ったら右側なので、すぐ思い出せる)。
でも、実際には現金を払っていないのだから、これを「未払」に置き換える。すると、


支払家賃 ◯◯円  未払家賃 ◯◯円

となる。

あとはもう月割計算をきちんとできるかっていう話なんで、そこは問題演習などで確認してもらいたい。
簿記3級で登場する、費用の「前払い・未払い」問題は全てこれで解決できる。


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◯フォロワーの問題をやってみる。


ツイッターのフォロワーが掲載していた問題をやってみる。

 

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当社では毎年11月1日に向こう1年分の保険料24,000円を支払っていたが、当期は10%アップして26,400円となった。
会計期間は4月1日から3月31日までであり、前払保険料は月割計算している。

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多分結構難しい方の問題。
途中から値上げしている、とか言い出してて結構ビビるけど、きちんと数直線をつくれば理解しやすい。

 

 

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このように、当期の保険料は、

①去年に支払った24,000円のうち、7ヶ月分(14,000円)


と、


②今年に支払った26,400円のうち、5ヶ月分(11,000円)


の、合計25,000円であることがわかる。

 

で、今年支払った26,400円の保険料のうち、今年の支払保険料(11,000)以外は来年の前払い分なので、「26,400-11,000=15,400円」を、「支払保険料」から「前払保険料」にする。

普通はここで終わり。


※なお、この問題はちょっと難しくて、それを「支払保険料」と「前払保険料」それぞれのT字勘定として整理しろ、という問題だった。

 

そうなると、保険料を支払ってから期末の処理だけでなく、期首に昨年の前払保険料を今年の支払保険料に振り替えるという処理も必要になる。

 

期首の前払い保険料っていくらだろう?
さっき①で計算したように、去年支払った24,000円のうち、7ヶ月分の14,000円は、今年の保険料なのであった。数直線を書くとすぐわかるね。

 

ということは、(ここ大事)去年末にしてみれば、14,000円は「前払保険料」という処理をしていたはず。
そしたら、今年の4月1日には、その「前払保険料」を「今年の支払保険料」に変えてやるという処理が必要になる。

 

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保険料に関する処理を全部書くと、以下のとおり。

 

・4月1日の処理
※前期分の前払い保険料を計上してから、支払保険料に振り替える。

前払保険料 14,000円  前期繰越 14,000円

支払保険料 14,000円  前払保険料 14,000円

 

・11月1日の処理
※支払保険料を現金で支払う。この時は「前払い」だの気にしない。

支払保険料 26,400円 現金 26,400円

 

・3月31日の処理

※来年の前払い保険料に振り替えるて、次期繰越する。

前払保険料 15,400円 支払保険料 15,400円

次期繰越 15,400円   前払保険料 15,400円


・翌期4月1日の処理
※前期分の前払い保険料を計上してから、支払保険料に振り替える。
前払保険料 15,400円 前期繰越 15,400円
支払保険料 15,400円 前払保険料 15,400円


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これさえわかれば、後は勘定を埋めていくだけ。

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グッドラック。
電卓忘れるなよ!!