食料自給率なんてどうだっていい(少なくとも心配しすぎ)

その昔、爆笑問題が司会をしているTV番組で「食料自給率」がテーマとなった時に、「日本の食料自給率は40%程度ととても低い水準」だと紹介するのに合わせ、「現在の日本の食料自給率に基づいたカレー」を作ってみるという企画があったのをやたら覚えている。

 

日本は豆とか油、そしてカレーには欠かせない肉(12%)の自給率が低いから、その結果出来上がったカレーは、米に(スパイスのない)水っぽいルーをかけて、そこへジャガイモと人参を浮かべただけの貧相なものだった。

それを出してきて「いやーこんなカレー食べたくないですよねー、食料自給率上げなきゃヤバイですよねー」というのが番組の趣旨だったんだが…。

 

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俺が大人になってもこのエピソードを記憶しているのは、それを心の底から「くだらねー」と感じたからだと思う。テレビのやり口としては大成功なんだけれど・・・あまりにバカにしすぎてる。

 

 

その理由は以下のとおり。

40%の食料自給率だと、こんなにみすぼらしいカレーしか作れないんですねー、うんそれはわかった。で、そこですぐに思いつく疑問が以下の3つ。

 

 

1:現時点ですでに食料自給率40%なんだよね? じゃあ今、僕らはどうしてそういうカレーを食べないで済んでるの? 

 

2:こんなカレーを食わなきゃいけない状況があるとしたらなに?

 

3:そんなの状況ってほんとに起こるの?

 

 

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疑問に対する答え

 

1:貿易をしているから。

2:貿易ができなくなるような状況。

3:起こらない。

 

おわり。あほくさ。

 

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あほくさ。で終わってもいいんだけど、一応、食料自給率を引き上げなきゃいけない理由として使われる「食料安全保障」について触れておく。

食料安全保障というのは、「何かあった時に食べるものがなくて国民が餓死したりしないように、自前で食べ物を調達できるようにしときましょう。自給率は国を守ることと同じことなのです」という考え方。

 

で、この「何かあった時」ってのは、農林水産省によると「凶作」「輸入の途絶」などの不測の要因なんだそうで、つまりは、

 

①:食料自給率が低い時、何かの間違いがあって戦争が起きた時に食べ物が輸入できず、つまり兵糧攻めのような感じになって国民が餓死してしまう。

 

②:そうでなくても、輸入だけに頼ると、世界的な凶作期には輸入品(たとえば大豆とか)が猛烈に値上がりして日本国民の生活が困る。

 

ということを指す。

 

これは、直感的にはそうかもしれないと思う。

でも、落ち着いて考えてみると、

 

①:戦争や国家間の紛争が原因で、戦争相手の国との貿易が停止する可能性はある。

例えばアメリカと戦争になったら大豆が輸入できなくなる。でも・・・ブラジルとかカナダからだって輸入してるじゃん。普通に考えたらそっちから輸入すればよくない? アメリカと戦争したってそっちは止まらないよね?  

ある食べ物を特定の国からしか輸入してなくて、そのうえでその国と戦争が起きた場合はちょっと困るかもしれない。でもそれにしたって、他の国交のある国を経由して、その戦争相手から輸入する方法(迂回貿易という)だってある。

 

こう言うと必ず「全世界と戦争になったらどうすんだよ!!」や「アメリカからの経済制裁で世界との取引が禁止されたらどうするんだ」というヒステリックな反論(?)になるんだが・・・そんな時になったらもう「美味しいカレーライスがたべたいよお(汗)」とか言ってる場合じゃないよなどう考えたって。

 

日本が大きく輸入に頼っているのは(こういうのを「対外依存度」という)、もちろん食料だけじゃなくて、「鉄」「石油」「羊毛」などいろんなものがある。日本って資源がないのよ。

ここで全世界との戦争なんかになったら、美味しいカレーライスが食べられなくてひもじい思いをする・・・・・その遥かずっっっっっっっっっっっっっっっっっと前の段階で石油が供給されなくて無条件降伏するに決まってる。

 

以上のことから「戦争などが原因で食料の輸入が止まったらどうするんだ」という問題は考慮に値しない。

ちなみに言うと、全世界と戦争して輸入が途絶えたその瞬間にめでたく「日本の食料自給率100%」に(強制的に)なるよ。

 

 

②:世界的な凶作期に輸入品の価格が上がる、というのももちろんあるだろうね。

例えば、世界的な日照不足とかでトウモロコシ(自給率ほぼ0%)が不作になって、アメリカから輸入する価格がとても高くなって、塩ゆでしたトウモロコシが大好きな俺たちが困る。

 

でも、よくよく考えてみると、その場合ってたとえ日本でトウモロコシ作ってても同じじゃないかなあ。 だって世界的な凶作だよ? 日本も無事で済まないよきっと。

で、日本でも凶作になるとしたら国産の価格も輸入品と同じように上昇すると考えられるんで同じことだ(冷夏でレタスがバカみたいな値段で売られているのを目にしたことあるでしょう)。

 

そもそも、「凶作に備えて日本国内でも食べ物を作りましょう」と言っている人の暗黙の前提となっているのは「その世界的な凶作のなかで、何故か日本だけが無事」ということなんだが、その理屈が俺にはどうしてもわからん。

 

わからんが、ここで、「不作はアメリカだけなんだよ! アメリカだけ局地的に不作になって、トウモロコシが輸入できなくなって、日本が困るんだよ」という主張も可能性としてなくはない。

でも、それなら①でも言ったけどアメリカ以外の別の国(例えばブラジルとか)から輸入したらいいだけの話だ。アメリカだけ不作っていう前提なんだからブラジルは無事なんですよね。

 

以上のことから、凶作を理由に食料自給率を高めましょうというのは理由になっていない。

 

加えて言うと、これら2つのことは決して起こらない。

仮にこういうの(世界との全面戦争)を起こる前提で考えると「じゃあ明日、宇宙から隕石が落ちてきて日本以外の国が消滅したらどうするんだ」くらいのことも考えないといけないから、不毛というか、そもそも議論として不誠実だと思う。

 

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ところで、以前にもツイッターで「食料自給率なんてどうだっていい」と発言したところ、「じゃあお前の好きな日本酒が飲めなくなってもいいのか」というリプライが着たけれど、(日本酒の原料となる米の自給率が95%なのはさておき)なぜ食料自給率が低下していくのかについて理解していない。

 

食料自給率が低下している原因って、要するに需要と供給の関係で「外国のほうが安くていいから」なんだよな。

 

まあ「いいから」なのは、ちょっと疑問。

俺も中国産のニンニクより、青森県産のニンニクのほうがずっと美味いと思う。

そして、そうした需要が十分にあるなら、そういう良い国産品はきちんと市場に残って、その作り手も現れる。だって売れるから。

 

その逆に、日本での栽培にそもそも向かなかったり(作ったとしても不当に高価になる)、この値段だったら外国のものと勝負にならないよねといった国産品は、日本のスーパーマーケットから姿を消していき、外国のものに置き換わる。

その結果、だんだんと(世界中で貿易が発達している成果ということもあって)日本の食料自給率が下がっていく。これは市場原理であって良いとか悪いとかの話じゃない。

 

米はどうだろう?

他の国に分けてやるくらいはあるようだし、今のところ「外国のほうが安くていい」という状況にはなっていない。

まだ日本酒も安心だ。が、この先「外国のほうが安くてうまい」という状況になるかもしれない。でも、その時は、安くていい外国のものを食う。ただそれだけの話だ。

ここで「俺は外国のものなんて嫌だ」というのは自由だし(俺だって(今のところは)絶対に国産でしか買わない食べ物がある)、みんながそう思えば、きっと国産のものが(高い価格で)スーパーマーケットに並ぶことになる。需給の関係というのはそういうものだ。

 

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こうした食料自給率論にあるのは「何となく自分たちのことは自分でやらないとダメな気がする。自立できていない気がする」という素朴な感情ではないかと思う。

それはそれで立派な心がけだと思う。ただ残念なのはそれが誤っていることだ。

それを言うなら俺たちが明日から食うパンの小麦も自分で育てたらいい。それをスーパーで用立てているなら……国が他の国から安い小麦を輸入したっていいはずだ。

 

食料の他に目を向ければ、例えば鉄鉱石とかどうします?   お洋服の加工だってほとんど日本じゃなくて中国とかベトナムの人にやってもらってるけど、そっちはなんで「いざという時に備えて自給しましょう」にならんのかな。

 

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最後に付言すると、この「食料自給率」の計算自体も合理的ではないとよく言われる。

 

よく「カロリーベースの食料自給率」と目にするけれど、このカロリーってのは、例えばマクドナルドでポテト食べたら500キロカロリーとかっていうカロリーと同じもので、俺たちが1日に食べたものの総カロリーの中に、国産のものがどれだけありますかねっていう計算方法だ。

これを重量にしちゃうと米と肉とかで重さが全然違って合計ができないからこういう方法にしてるんだと。

 

でも、カロリーベースにしちゃうと、例えば白菜なんかは食料自給率が100%だけど低カロリーだから、いくら自給してたって全体の食料自給率にあんまり影響しない。その他、キャベツとかカブとか、食料自給率が100%近いものをいくら集めても貢献度は微々たるもの。だって低カロリーだから。

それに対して牛肉は高カロリーでしかも自給率が12%くらいだから、食料自給率全体を大きく引き下げる。

 

たくさん作っててもそれが低カロリーな食べ物だと食料自給率を高めることはないってこと。で、日本は、そういう低カロリーな農作物をたくさん自給している農業国なんだ。

 

じゃあ逆に、白菜とかキャベツとか全部作るのやめて、高カロリーの牛ばっかり育てれば食料自給率めっちゃ増えることになる。あるいは国民に対して「肉食うなカブ食え」と制限するだけで(国内の生産状況は全く変えずに)大幅に食料自給率は改善することになる。でもそれってどう? 

 

更に言えば、牛の自給率を計算するとき、牛のエサに使われている穀物が輸入品だと、たとえ牛を国内で育てても輸入されたものとして扱われるんだって! 日本では穀物の生産に向いてないからエサは輸入してるんですな。だから牛肉の自給率が低くなる。え、日本できちんと育ててるのにって思うよな。

 

そんなよくわからん指標をもとに「日本の食は危険だ」「自給率をなんとかしなきゃいけない」っつってむやみに自給率を上げましょうというキャンペーンを貼るのは、消費者をむだに高い国産食品を買わせようとする、農家の保護政策以外の何物でもないと俺は思うんだがどうでしょう。

俺はこのブログの読者には以上のような観点で食料自給率の議論には疑ってかかって欲しいと思う。