会社の説明会をやってきた


先日、会社の合同説明会に説明者として派遣され、弊社の業務説明をやってきた。今日はその話をする。

 

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先月、会社の人事から急に連絡があって、今年の業務説明会ではお前がうちの担当者となって、若者たちをうまいこと騙してリクルートしてこいとの命令があった。

説明者は毎年、だいたい俺のような若手の係長の中から選ばれるんだそうだ。

弊社ではそのくらいの年ごろの人材が豊富であるにも関わらず、なぜ俺なのか? これがまるでわからん。

俺の一体どんな活躍ぶりを見てこいつならこの会社をしっかり説明できると思ったのか、俺が経営者だったら、普通のことを普通にこなせる人を派遣するんだが(ヒマだし面白そうだからいいけど・・・)。

 

で、やるからにはしっかりやろうってことで、まずは原稿づくりから始めた。ブログを見ていればわかるように、俺の話は基本的に脱線するというかそもそもレールがない荒野を行く電車のように、業務説明をしていたつもりが気がつくと昨日見かけた面白い模様の猫みたいな話になっているから、なんとしても原稿は必須だ。

 

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俺は今の会社に就職してからまず地方の支社に入り、そこで4年働いたあとで本社に移ってきて現在に至る。
だから話としては支社と本社両方の話ができるわけだが、俺は今でこそまあまあ楽しい社会生活を送っているものの、支社で働いていた時の印象は最悪で(業務内容も仕事のための仕事だし、狭い人間関係で心を壊す人もいた)、その中から就活生たちにどんなポジティブな話をしたらいいのかわからん。

 

原稿を書いている途中からその時の悪い記憶が次々と蘇り、第一稿ができたと思ったら以下のような内容になっていた。


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こんにちは、青山です。

本日は弊社の業務内容を簡単にご説明させていただきますが、弊社では本社と支社とで、業務内容が大きく異なります。
ですから、私自身の経験談も交えつつ、支社・本社と、それぞれ順番にお話したいと思います。

 

まず、支社のご説明をいたします。

みなさんは、「賭博破戒録カイジ」という漫画をご存知でしょうか。

あの漫画の中には「地下帝国」といって、多額の借金を背負った若者たちが強制労働させられる場所が出てきます。非常に劣悪な環境で、中には命を落とす者もいます、が、借金を完済するまでは決して自由にはなれません。
また、地下帝国で働く者はみんな同様に借金を背負っているのですが、その中でも「班長」「副班長」などの序列があります。この班長というのが筆舌に尽くしがたいクソ野郎でして、主人公の「伊藤カイジ」は猛烈なイジメにあいます。
が、カイジたちは、地下帝国で行われたギャンブルでなんとかその班長を倒し、巻き上げたお金でもって、その地獄のような地下帝国を脱出するのです。


弊社の支社に関するご説明としては以上です。

次に・・


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これでも良かったんだが、同僚に聞かせたところ「カイジを知らないといまいちピンとこない。というかふざけてるのか。真面目にやれ」ということだった。悲しい。が、たしかに誤解を招きかねないような内容だと感じたので、以下のように書き加えた。

 

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(前略)


そんなわけでカイジたちは、地下帝国で行われたギャンブルでその班長を倒し、巻き上げたお金を使うことで、その地獄のような地下帝国を脱出するのでした。

 

・・・だが、誤解がないようお前たちに言っておきたいのは、現実の地下帝国では、班長というクソのような人物はいたとしても、お前たちがそれを打ち負かしたり、逃げ出せたりするようなチャンスは決してないということだ。


お前たちは安易な気持ちでこうした会社説明会に来て、何か良い「雰囲気」を感じ取っただけでろくに考えもせず、「ここでいいや」などという気持ちで会社を決めるんだろう。だが、そうした企業に入社した後のお前たちに与えられる選択は多くない。そこで死ぬか辞めるかだ。

 

だいたい、こういう会社説明会にわざわざやって来て、相手の話を聞いた印象で就職先を決めようとするようなお前たちみたいなのが一番やばい。なぜやばいか、その理由はいくつかあるから今から説明しよう。

まず、こうしたところで企業の本当の姿が見られるわけがない。現に俺はこうして完全な台本をつくり、それをただお前達の前で読んでいるだけだからな。
次に、ブラックな会社ほど離職率が高いから、こういう新入社員勧誘の場では熱心にいろいろなサービスを提供する。つまりこうしたイベントではブラックな企業ほど魅力的に思えるのだ。
更に悪いことに、人は、ただ与えられるより、自分から動いて得た(と思っている)情報ほど信じてしまうんだそうだ。つまりこうした説明会に「わざわざ」来たお前たちは、隣のブースのいかにもブラック企業な奴らの話をあっさり信じてしまうことになる。だからむしろ説明会には来てはいけなかったのだ。それなのにお前たちは今日こうしてノコノコとやってきたわけだ。おおかた家を出る時にお母さんから自分の入る企業をしっかり見てくるのよとか発破をかけられて来たんだろうが、その実際のところはマリオに踏まれるほかに運命が存在しないノコノコのような存在がお前たちだ。

 

ノコノコ来てしまったのは仕方がないとしても、お前たちはこういう説明会で見るポイントが決定的に間違っている。間違っているだけならまだしも、就活生に対してサービスの良い会社が、すなわち自分が働いても良い会社だろうとか言っている奴が一番おめでたい。それはなぜか?
来年、入社した後で、今度は会社側の人間として、自分の本来の業務とは別に、学生どもにこうしたサービスを行うのは自分自身だということをまるで理解していないからだ。 同様に、就活のうえでの相談を電話で受け付けていたり、土日でも採用面接の日程調整に応じますと謳っている会社もなかなかのブラックな労働環境だと考えればいい。


それにも関わらず、お前たちは企業のこうしたサービスを「苦しゅうない」てな顔をし、まるで何かの客にでもなったかのように呑気な調子で受けつつ、何の疑問も持たずに人の説明を信じ込み、更に最悪なのは、その中で最も印象の良かった会社に就職しようとすることだ。おめでたいとしか言いようがない。

 

などと説教ばかりしていても、お前たちはちっうるせえなこのアラサー野郎という顔をして聞く耳を持たないだろうから、遅いかもしれないがアドバイスをやろう。

要するに今いった就活イベントに熱心な会社、とは逆の会社に就職したらいいということだ。


俺がなぜお前たちに水のひとつも出さず、貧乏くさいパイプ椅子を適当に並べただけで済ませているかわかるか。俺が面倒くさいからだ!!

それに対してお前たちが思うことといえば「なんだよサービス悪いな」くらいなものだろう。それが全く間違っている。
そうではなく、あんな適当な感じでも毎日仕事できてるんだなあ、いい会社だなあ、あんな会社だったら俺みたいなやつでもそこそこやれるんじゃないか、みたいに思わなきゃダメだ。

 

就活イベントのほか、電話の受付でもそうだ。基本的にサービスの範囲が狭いところが良い。

土日も受け付けているところは(業種によるが)論外だとして、平日もきっちり17時までで締め切る会社に就職するのだ。俺なら水曜の午前中だけとか、この会社と連絡取るにはどうしたらいいんだと途方に暮れるような会社を見つけてくる。その場合は競争相手となる就活生のエントリーも少ないと見込まれるからダブルで良い。

「ダブル・良い」だ。


更に細かいことを言えば、実際に電話した時、まずはパートのおばちゃんみたいなのが出て、その後に社員に繋いでくれるようなところがいい。
ちゃんとお金を使ってバイトを雇い、社員のお手伝いをさせていることや、業務を分担していることがそこでわかるからだ。
ただ、そこで出た社員の言葉遣いや、対応自体は、印象が良い方がいい。というのも、実際に就職した場合、少なくともそいつは自分の先輩となるからだ。

 

以上のような話をまとめると、こういうイベントではサービスを受けるお客様としてじゃなく「実際に来年自分がこれをやるんだ」「こいつがもし俺の上司になったら」という想像をしつつ、なるべく「平和そうな」会社に行くのが一番いいということになる。

 

ただし、平和そうというだけでは呑気なまま潰れていく運命だろうから、平和そうで、かつ、歴史がそこそこある方がいい。そういった会社はおそらく、体育会系のような無駄な気合を入れずとも、商品価値や営業力で、その業界では確固たる地位を築いているということだ。


以上のことがわかったら今まで自分で書いた会社メモを全部破ってもう一度企業ブースをまわり、いちばんボケっとしてそうな会社を見つけてきては熱心に話を聞いてくることだ。きっと相手も「なんでこんなんで就活生来るんだ?」とかびっくりするぞ!

ちなみに、こんな関係ない無駄話みたいなのを延々と言っても怒られない弊社は、本当の意味で社員に仕事を任せている、自由な雰囲気で働ける職場だってことでなかなかいいぞ。


私からの会社説明は以上です。

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力作だと思ったんだが、同僚に聞かせたところ「うちの会社の説明が一切出てこないからダメだ」としてボツになった。なんでだよ!

ちなみに実際の俺の説明を聞いたというかた、ぜひ同僚になりましょう。