ウニの声が聞こえる男の話

お~いみんな~ ウニの声聞いたことあるか~。

 

今日は、海産物のウニの声を聞くことができる、世にも奇妙な人の話をする。

 

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俺にも友人と呼べる男がいるって、前にも言ったよな。

で、ウニの声が聞こえる奇妙な人というのが、何を隠そうその男だ。

俺に唯一いる友人がウニの声を聞くことができるから、俺の友人のウニの声聞こえる率100%だ。

 

話が唐突過ぎて何言ってるのかよくわからんだろうからちゃんと話すぞ。

 

まず、俺とその友人が出会ったのは、お互いが高校1年の時だが、その頃の話は本件と関係ないから省く。

そんでいろいろあって、その友人はウニの声が聞こえるようになった。

 

うん、もちろんその間の話もする。

高校卒業後、別々の大学に進学した俺たちは、出来る限りワリのいいバイトを探して、二人してお金を稼ぐという活動を始めた。

だいたい大学生の本業というのは、授業をおろそかにしつつはした金を稼ぐことだからな。

 

バイトは様々なことをした。

まず、クリーニング屋の仕分け作業員。これは一言で最悪だった。

ホテルから回収されてくるシーツやら毛布やらを分別して、巨大な洗濯槽の中にぶち込み続けるという作業だが、それを回収してくる先というのがいかがわしいホテルなもんだから、とにかく普通じゃない使われ方をしたとしか思えないくらいシーツ類が汚れてる! 

お前たちいったいどんな、まったく何をしたらこんなことになるのか俺には皆目検討がつかん。少なくとも、悠久の歴史をかけ人類が自分の子孫を繋いできたその営みのうえで全く必要のない行為が行われているのだと断言できる。

 

これに懲りて、次はデータ入力のバイトをしたんだ。

これはクリーニング屋とはうって変わって、職場も綺麗、仕事も楽ちん、収入もまあまあで、非常に良かった。うんうんこれが現代人の働く環境というものだよな。

ただ、それでも、ほとんど気にならないが、アラ探しをしようと思えば、

 

1.周りで働いてるのがだいたい若いギャルで、「あたし今出会い系のサクラやっててさ~」などという話を四六時中している

2.俺自身、いま入力している顧客データが一体何の商売で使われているのかよくわからん

3.その職場はある日、事務所ごとこつ然と消えた

 

といった問題があったことくらいだ。

今から思い返しても、どうせ働くのであればなるべくこうしたバイトを探したほうが良いと、当時の青山青年は思ったものだ。

青山青年ってなんか漢詩の一部みたいでかっこいいな。

 

あとは大学の研究施設で治験のバイトもした。

治験というと俺たちが思い浮かべるのは、取り敢えずバイト場につくなり硬いベッドに縛り付けられ、5秒で昏睡する注射を打たれた後、よくわからんうちに、よくわからん薬を沢山飲まされたあげく、目が覚めたら全ての皮膚の色がビリジアングリーンになっていて、そんで「本日はお疲れ様でした」と言われて1,000円もらうみたいなイメージだと思うんだよな(腕も2本から7本に増えている)。

 

ところがこれが少し違った。

俺がやったのは、狭い実験室で、延々とテレビ画面に表示される「A」だの「B」だのって文字に従いつつ、手元の機械のボタン(AとかBとか書いてある)を押していくというもの。

この実験が何に使われているのか、その目的までは教えられなかったけれど(聞けば答えてくれたのかもしれないけれど)、とりあえず黙々とやった。こういう安全な治験のバイトもあるにはあるんだ。10年たって突然皮膚の色が真オレンジに変わるかもしれないけど。

 

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今日は「こんな変なバイトしましたよ」って話じゃなくて、ウニの話だったこと思い出した。

 

そういったバイトを、たまには冒頭の友人と一緒にやることもあったんだ。

たとえば予備校のバイトとか。これは、予備校と言っても講師じゃなくて、試験監督だとか、模擬試験の採点だとか、その辺の事務周りの作業で、これがめちゃくちゃホワイトで時給もよく素晴らしかった。バイトに悩んでいる人がいたら俺は毎回試験監督を勧めているくらいだ(毎週決まって仕事があるわけじゃないのが難点だけど)。

 

また、採点のバイトも、基本的にはもらった模範解答に添って○だの☓だの付けていくだけの単純な作業で、人と会話しないで済むし、非常にワリが良くて、俺は友人を誘って、そのバイトの求人が出るたびに一緒にやっていたんだ。

これで延々とお小遣いを稼いで、勉強もしっかりやれば中々充実した大学生活になるじゃん! ということで長らくやっていたんだが、ある時から、友人がそのバイトに登録しなくなった。

 

もしかして友人に5億円の宝くじが当たり、もうバイトする必要がなくなったのか(そうだとしたら俺のところに分け前の話がきてないから不自然だが)、他にもっと割のいいバイトを見つけたかのどちらかだと思うよな。

で、友人に今どこで働いているんだと聞いたら、「俺最近ウニの缶詰工場で働いてるんだ」だからな。予備校のバイトからウニ工場ってどんな人生の転機なんだよ、しかも本業は大学生だぞ。

 

俺とその友人との間には「立ち入った話や、ヤボったい話は、相手が言いださない限り、いくら気になっててもこっちから聞かない」という暗黙の紳士協定があるから、この友人がなぜそんなウニ人生を歩むことになったのか俺には及びもつかない。

及びもつかないが、まず誰かに騙されたんだろうって思うよな。俺たちが街を歩いているとよく「バーニラ!バニラ!バーニラ求人!! バーニラ!バニラ!高収入!」って歌を大音量で流しているトラックに遭遇するけれど、あれについていくとウニ工場にたどり着くと思う。

 

だけど、このウニバイトというのがよっっぽど面白かったのか、結局友人はその後の大学生活をウニ工場に捧げることとなった。丸々2年はやっていたと思う。

で、お互い就職してから久しぶりに会った時、俺が「そういえば君、大学生活の半分くらいウニと一緒に過ごしてなかったか」と聞いたら、その友人「うん。ウニ工場の人からも、このままウニ工場に就職しないかって言われたんだけど、断った。でも最終的にウニたちが何言ってるのかわかるようになって寂しかった。」だからな。

 

俺はここを読んでいる君たちに言いたい。

ウニ工場、もしかしたらアリかもしれんぞ。

少なくとも俺がホワイトと思っていた予備校のバイトよりも待遇が良くて(騙されてなければ)、しかも最終的にウニと会話できるようになる特殊なスキルを身につけることができる(就活にも活かせる)。

バイトに迷ったらウニ工場行ってくれ。そんで結果を俺に教えてくれ。

 

ところで、俺には友人だと呼べる存在がリアルにその男ただ1人なわけだが、 その男はウニ語を理解する。で、俺にはそのウニ語を理解する人以外に友達ができない。

このことを合わせて考えると、俺自身がウニの可能性出てきた。