最低賃金が上がって困る人達のことを考える

最低賃金の引き上げがニュースになっている。

こうした動きに対しては、世間は(とりあえずTwitter見ている限りでは)概ね好感というか、むしろ「いまだこんなに低いのか」「こんなので生活できるのか」というベクトルの意見が多いように感じる。

でも、本当にそうだとばかり言えるだろうかと俺は毎回う。

 

rocketnews24.com

 

全国の最低賃金は鹿児島県の761円だが、確かに、明日からお前一日9時間働いて、760円×9の7,000円弱で生活しろと言われたら厳しい、と感じてしまう。

でも、逆に1時間760円を人にあげるのも結構きついんじゃないか、という観点で、以下の問題を考える。

 

田舎のコンビニがどんどんブラックになる。

 

例えば、人口8万人未満の田舎のコンビニを想像する。車道に面した場所にあるけれど、実際に入ってくるのは飲みものかおにぎりを買いに来るドライバーだけで、雑誌はそんなに売れない状況と仮定する。

 

100円のおにぎりが一つ売れると、粗利率がだいたい30%だから、30円の利益。でも、フランチャイズだから本部に対してそのうち20円の利益を渡さないといけない。フランチャイズってのは「セブンイレブン」とか「ローソン」だのっていう会社のことで、そのための費用は、それら大企業の看板とか商品・流通を使わせてもらっている料金っていう意味だ。で、そんなこんなで、おにぎり1個売って残ったのはだいたい10円となる

では、最低賃金760円をクリアするために必要な最低おにぎり販売個数はいくつだろか。そう考えると田舎のコンビニで、バイト一人が「1時間で粗利760円」をクリアするのは結構しんどい。コンビニは想像以上の薄利多売の世界なんだ。

 そんな状況で、どんな店でも最低で1時間あたりこれだけの賃金を支払え、なんてことが法律で決められると困ってしまう(決して悪徳経営者ではない)人たちが出てくる。

 

でも、だいたいまあ普通の店は、それ以上に売れるから大丈夫なんだ。

ここで問題にしたいのは、やっぱり田舎のフランチャイズ・コンビニで、夫婦が経営しているような場合。こういう時、夫婦は仕入れから棚卸し、レジ打ち、店の清掃なんかを全部やっている。

ここで、夫婦のうち、夫が朝から体調が悪くて、奥さんが店に立たないといけないとする。でも、その日はフランチャイズ新商品の搬入やら検品やらで忙しい。

そういう時に、近所の付き合いで仲のいい人に、午前の3時間だけでもお店を見てくれないかと依頼するとする。店の椅子に座ってて、来るか来ないかわからないお客を待っているだけでいい。その間はボランティアというわけにはいかないから、1時間あたり500円をお手伝い料として支払う。その時点で最低賃金を下回っているから違法行為となる。

 

このように、早い話、最低賃金制度があると、こうした「ちょっとしたお小遣いで、ちょっとしたお手伝い」ができなくなる。

結果、夫は身体をおして出勤し、田舎の零細フランチャイズコンビニは早晩、夫婦の身体の故障のため立ちいかなくなる。

そうでなくても、1時間に760円人に払えないような地方のお店はかなり過酷な労働環境となっていくだろう。そして、重要なこととして、彼らは人から不当にピンはねをしようとする悪徳な経営者ではない。

 

ブロガーの中には、物価は変わらないのに地方の最低賃金が安すぎる、という論調もあるようだけれど、物価が同程度で、更にお客さんも同程度いるのであれば、収益性も同程度だろうから、それに対して支払われる賃金も同程度で良いと思う。
が、ご存知の通り、とりわけ客数の点においてそうなってはいない。
このように、収益性が見込まれないにも関わらず、単純に物価だけを取りあげて高い賃金を法律の面から規程されてしまうと、田舎のコンビニ等はもはやお手伝いさんレベルであっても人を雇うことができなくなり、その結果として地方からお店が消えていく。

最低賃金制度はこうしたことの大きな要因にもなりうることは言っておきたい。

 

他方で、適法な賃金で人を雇えないような店なんてやめちまえばいい、という意見もそれはそれである。これを読んだ人の半数以上はそう感じるんじゃないかと思っている。でも、それがまさに地方の切り捨てだったり、柔軟な働き方とやらに逆行することなんじゃないかとも俺は思う。

 

さらに言えば

また、このように最低賃金が上がることで、今まで最低賃金で働いていた人がそのまま賃金アップとなるとは限らないということは指摘しておきたい。

 

というのも、経済学的に、賃金はその地域における生産性や労働需給によって決まる。

すなわち、その人は、その人の能力・環境・売っているモノの性質、または、他の労働者(そこでバイトしたい人たち)との関係から言って、1時間あたり730円の生産性があるから、時給730円を目当てに自ら応募し、そして毎時間730円を貰っていたんだ。

 

それが最低賃金760円となるとどうなるか? 730円の生産性に、760円を払うのは非合理的だ。従って730円の生産性をもった人はクビとなり、代わりに760円の生産性をもった人が雇われることとなる。

 

最低賃金が上がって報われるのは、これまで760円の生産性があったにも関わらず、労働の機会が少なく、730円でしかどうしても働けない環境だった人だけだ。

 

最低賃金も払えないような店はなくなってもいい、というのも一つの意見かもしれないが、①:田舎のコンビニが1時間に760円も賃金払うのは大変だぞ、②:最低賃金が上がったと言う理由でクビになる可能性だってあるぞ、という話を今日はしたかった。